*ちぎり絵制作の日常をあれこれ綴っています
私は染め和紙の何とも言えない「ぼかし」や「にじみ」といった不規則な美しさが大好きです。作品もそこに触発されたり助けられたりして続けられています。ところが、もうずいぶん前からそんな染め和紙のバリエーションが、急速に、危機的に狭まってきています。
しばらく前に、その不安を地元の和紙問屋(埼玉県/有名な和紙産地の比企郡小川町や東秩父村がある)の方に訴えた時に、こんな話を聞きました。
「かつて染め和紙は、地元農家の主婦の副業として盛んでした。農家の敷地の一角にちょっとした小屋が染め場になっていましてね。おばちゃんたちは農閑期になると和紙工房から生成りの和紙を仕入れにゆく。それを自分のセンスで好きなように染めてゆくわけです。ちょっとした小遣い稼ぎですね。
和紙の染めは、顔料の調合や刷毛さばき、染色槽から引き上げる一瞬の呼吸でその色あいが決まるものです。ハッとするような美しい和紙を染める人もいました。種類もたくさんありましたね。でも、このところそのおばちゃんたちが高齢化で次々引退しちゃってね。入ってくる品物が、もう急激に細ってしまいました・・・。」
ちぎり絵を始めたばかりの頃、入門書に「和紙は自分でも染められます」とあって、当時住んでいたアパートの狭いキッチンで染めてみたことがあります。
忘れもしない群青色の染料。何とか手順どおりできた!と思いきや、ゴム手袋を外すとホラーみたいな「青い手」に。焦った末に漂白剤を使っても(!)落ちず、翌日は仕方なくその手のまま会社に出勤して職場の人たちを驚愕させました。
結局、十分な設備もないキッチンで染めた和紙は全くたいしたコトない感じの仕上がりで、これはプロにはかなわない事だと悟りました。
染め和紙市場の縮小は、結局のところ需要と供給の問題なのでしょう。
日本の和紙漉き技術は2014年にユネスコ世界文化遺産に登録されました。以来、どの和紙産地(島根県浜田市、石州半紙/岐阜県美濃市、本美濃紙/埼玉県小川町と東秩父村、細川紙)も技術伝承のため、自治体を挙げて若手の育成に力を入れています。
でもその若者たちが「食べて行ける」ような、和紙の根本的な需要の掘り起こしと産業育成はまだまだまだで、苦労と模索がずっと続いています。
*写真は制作に使っている和紙片です。